カテゴリー「思うところ」の2件の記事

2009/08/13

海とスポンジと喧騒と

Photo_4 ランペドゥーサ島と、行って帰って来てようやく空で言えるようになったけど、島に上陸して5分後に夫のある身のあたしとハイディの心を鷲づかみにしたのは、スプーニフィーチョだった。

 船が着岸するランペドゥーサ島の新港のあたりは、南国の港町のイメージそのままの色彩も雑多な建物が暑い日差しの中に並んでいて、旅気分につられて観察力なんかがいつになく高まる。

 今どき手書き看板の文句を「スプーニフィーチョ」と何気なしに口に出してみたら、これが2回は声に出してみたくなるイタリア語だった。ハイジとあたしは実際に二度見ならぬ二度言いしたし、「スプーニフィーチョ」という単語だけでしばらく座が持ったほどだった。

 ソバに「屋」がつくとそば屋になるように、イタリア語では特定の名詞の語尾に「フィーチョ」をくっつけて専門店を表すことがある。
 パーネ(パン)につけばパニフィーチョ(パン屋)、ラッテ(牛乳)だとラッテフィーチョ(乳製品専門店)という具合なんだけど、シチリアから8時間も遠ざかってしまうと、スプーニャ(スポンジ、ここでは海綿)だけでやっていけるスプーニフィーチョなる新しすぎる専門店が当たり前に並んでいて、人はアフリカと呼ぶランペドゥーサ島への期待はいやがおうにも高まったのだった。

 そんな島での滞在先のレストラン兼バールで、あたしたちのテーブルにお皿を出したり引っ込めたりしてくれたベロニカは、そのドラマティックな名前に似つかわしく、美しいヴァレリア・ゴリーノの娘に扮して、映画『レスピーロ(呼吸)』にでていた。

 この年末年始に、ライプツィッヒのハイジのうちのリビングに雁首揃えて、『レスピーロ』をイタリア語で観たことをはたと思い出したあたしは、何かを見ても何も見えていない自らを嘆きつつ、なんで今度の旅がランペドゥーサ島になったのかを悟った。ランペドゥーサ島は、そのロケ地なのだ。

 生き物が一切の活動を止めそうな島の昼下がりは、海が見えるベロニカのバールに座って、イタリア語は31ページで頓挫した『百年の孤独』を日本語で読んで過ごした。

Photo_5 ある日の昼下がり、背後で大げさに嘆き続けるオトコの声がだんだん気になって来て、D.カッパーフィールドみたいにおんなじ文章を5回は読まなければならなかった。どうやら、オンナが20ユーロ「も」払ってクスクスを食べてきたらしい。

 これは身に覚えどころか、つい前日にも、あたしもハイジもそれぞれが1回づつおんなじやり取りをしたばっかりだ。
 
 10人いれば10人の夫が、妻の、正統な理由のある買い物/「ささやかな」散財を問わず、出した金額を必ず知りたがり、ギリシア悲劇風に嘆くのはなんなんだろうか。州かなにかの条例かもしれない。チュニジアまでわずかに113kmに迫るといえども、ランペドゥーサもまたまぎれもなくイタリアであった。見ればベロニカで、夫でなければ同棲相手だろうと思っていたオトコは、父親だった。

 イタリアでは娘時代から一生「それで、いくら払ったんだ?」と聞かれ続けるのだ。たとえドルチェ・エ・ガッバーナの120ユーロの新作水着だったとしても、その正しい答えはこうである。「10ユーロ、青空市場で。ほんとは12ユーロだったんだけど、まけてくれた。」 嘘をついた時の答えは少しばかり長くなる。

 

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2008/01/22

美しさの基準

 2006年公開だから2年も前の映画になるけどクリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』を、ダウンロードして観たっていうスコットランド人のクレアに「エキストラに至るまで出てくる日本人”全員”が、んもうほんとにかっこよかった!全員よ!全員!ヒロコ、なんでイタリア人と結婚したの?!」と沽券に関わる質問をされた(笑)。

Photo_4

 あたしはその映画を観ていないのだけど、話を聞いた限りでは日本人の所作とか美徳なんかも丁寧に描かれている風で、どうやらそれもひっくるめて”美しかった”って言ってるみたいなんだけど、それにしても”全員”ってことはないだろう(笑)

 2mはあろうかという長身で結婚式で紹介された時は女友達”全員”がどよめいたほどセクシーでワイルドなお兄ちゃんを側で見て育っていながらイタリア人と結婚したクレアは、一目でそれと分かる英国人らしい端麗な顔立ちで、しかもイタリア人も日本人もこぞって憧れる金髪にグレーがかったブルーアイズだ。

6  そんなクレアがお兄ちゃんを差し置いても、”全員”がかっこよかったなんて言うもんだから、その全員が誰と誰と誰なのか、すごい気になって、検索しているうちに、ドラマから映画までエキストラのみの募集情報ブログなんかも発見してしまって、思わず過去ログに溯って『硫黄島からの手紙』のエキストラは募集してなかったのかざっと目を通したりもしたけど、公式HP、DVDの出演の欄なんかから分かったのは、主たるキャストの渡辺謙さん、二宮和也さん、伊原剛志さん、加瀬亮さん、中村獅童さんの5人だけだった。

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